もともと絵は抽象である 高校の美術で探った「絵画とは何か」
(もともとえはちゅうしょうである こうこうのびじゅつでさぐった「かいがとはなにか」)
山廣茂夫 著
仕様:四六版/248頁 口絵カラー16頁
定価:2100円+税
2019年8月29日発行
ISBN978-4-938643-87-4 C0071 2100E
僕らはこんな美術で育った
奥行きと立体感、デッサン力が絵画の基礎だと考えられている。
はたしてそれは正しいのだろうか。
もっと大切なことを見落としていないだろうか。
本書は、西洋絵画を規範とする美術教育がすくい取れなかった表現の試みを、
高校の美術を通して探った集大成である。
授業を受けた生徒作品とともにまとめた。
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書評
「神奈川新聞」読書ページ 2019年11月17日「かながわの本」
「月間美術」2019年10月号
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【著者紹介】
(やまひろ・しげお)
1972年、広島県立呉三津田高校卒業。2年からは美術部に入り、石膏デッサンを始める。
卒業後上京し、大手美術予備校で本格的に実技に取り組む。
ながく浪人を重ねたが、この間の経験が、後に美術教員としての指導の基礎となった。
1977年、東京造形大学造形学部絵画科に入学。成田克彦らに学ぶ。
1981年、大学卒業後、神奈川県立高等学校の教諭として採用される。綾瀬高校、野庭高校を経て、美術専門コースのある上矢部高校に勤務。ここの美術部からは、アーティストや美術教員、デザイナー、陶芸家等が多く育った。
授業用資料『見る事と絵画表現の歴史』が提出論文として認められ、「美術史学会」の会員となる。
2003年、美術専門コースのある白山高校の教頭として転出。
以後は、専門コース・専門学科の設置校の管理職として勤務する傍ら、「全国高等学校美術、工芸研究会」副会長として、研究会の運営に携わり、2014年退職。
美術教育に長く関わって、いつも頭の片隅に疑問があった。現代の美術には抽象画をはじめインスタレーション、映像など、過去にはなかったような多くの表現がある。時代とともに新しい表現が出てきて久しい。にもかかわらず、「石膏デッサン」が、今でも描写の基礎とされている。しかし、デッサンをとおして身につけるはずの見方や表現方法は、普遍的な絵画とはかなり違う。
この見方には、絵画として本質的な矛盾があるのではないか。そうでなければ、現代の美術はこんな多様な表現を持たなかったはずだ。
音楽にはクラシック、ジャズ、歌謡曲などさまざまなジャンルがあるが、現実世界の再現をするのが音楽ではない。歌謡曲やポップスには歌詞があるが、歌詞がなくても音楽は成立している。何かの意味がなくても音楽は音楽だ。
ジャズの即興演奏は、演奏者がその場で出す音のつながり全体で音楽を組み立てている。リズムとメロディーとハーモニーで、音楽的な世界を創り出そうとしている。
同じように、カンディンスキーやクレーは、平面上に置いた色と形に触発されて、絵画でしか表現できない別の世界を組み立てている。「見ること」と「描くこと」を分離した結果、どんな絵画でも基本は「抽象」だと確信するようになって、それが美術教員として指導をするバックボーンになった。
(本書本文より要約抜粋)
【本書のもくじ】
巻頭口絵 1〜16
まえがき 19
第1章 石膏デッサンの時代…………33
1 美術の予備校で 34
2 石膏デッサンも絵画か 36
3 「見ること」の不安定さ 40
4 模写から得たこと 43
5 「見ること」と「描くこと」の分離 46
6 抽象としての絵画 48
第2章 「見ること」の不思議…………51
1 「意味」を見る 52
2 眼と認識のしくみ 53
3 眼とカメラの違い 56
4 網膜像と知覚像 57
5 恒常視という現象 59
6 恒常視の役割 61
7 デッサンと恒常視 62
第3章 「陰影法」のなぞ………………67
1 陰影のない絵画 69
2 陰影による人体表現 71
3 ミケランジェロ 73
4 鏡と自画像 76
5 古代の陰影法 78
6 ルネサンスの陰影法 82
7 陰影法を捨てた印象派 84
8 リアリズムの陥穽 86
第4章 「遠近法」の光と陰…………93
1 「遠近法」の誕生 95
2 浮世絵の中の「遠近法」 98
3 マンテーニャと恒常視 101
4 塗り絵と西洋絵画 103
5 「遠近法」と視覚 105
第5章 授業のフィールドワーク…………109
1 減った授業時間数 110
2 授業課題を考える 112
3 条件の設定 113
4 見方を探るための課題 115
5 輪郭線はあるか 117
6 比較による見方 118
7 眼から描く 119
8 輪郭線とかたちのとらえ方 120
第6章 素描と石膏デッサン…………125
1 授業の石膏デッサン 126
2 初心者にはデッサンスケール 128
3 美術部の石膏デッサン 131
4 明暗の対比とバック 133
5 東西の絵画表現の違い 138
6 トーンの対比による見方 140
7 明暗の逆転 141
第7章 遠近法とセザンヌ………………145
1 セザンヌの成し遂げたこと 146
2 セザンヌの見た静物 147
3 印象派とセザンヌ 151
4 セザンヌの緊密な秩序 152
5 セザンヌからキュビスムへ 153
6 ピカソのキュビズム 154
第8章 現代の絵画とそのルーツ…………157
1 絵画の自立 158
2 フォービズムとキュビズム 160
3 色彩家マチス 161
第9章 現代の美術とデュシャン…………165
1 酷評された作品 167
2 ダダイズムとデュシャン 167
3 「泉」とレディメイド 168
4 デュシャンの「大ガラス」 170
5 デュシャンの功績 171
6 戦後のアメリカの現代美術 173
7 現代美術の多様性 175
第10章 アートと美術教育…………177
1 美術は趣味の世界? 179
2 美術教育のための組織 181
3 美術専門学科のある高校 182
4 美術教育の役割 183
5 美術の専門コースで 184
6 専門コースのカリキュラム 186
7 専門コースの授業の種類 189
8 専門コースの授業の内容 190
第11章 基礎としての鑑賞…………193
1 鑑賞の授業のきっかけ 194
2 系統性を持たせる 196
3 テキストを作る 199
第12章 表現の基礎………………203
1 図と地の認識 206
2 モチーフと背景 207
3 「きわ」の見方 210
4 遠近法を知る 212
5 不自由もまた楽し 214
6 素描による構成 216
第13章 色彩と形からの発想…………221
1 イメージとドローイング 221
2 偶然を楽しむ 223
3 造形的パズル=コラージュ 225
4 油彩と「ヴァルール」 226
5 ヴァルールと音階 227
6 岡本太郎の掟破り 229
第14章 自分で判断できる力=美術部……231
1 高校生美術展と美術部 232
2 美術部との出会い 233
3 アーティストの卵たち 235
4 美術部の日常 236
5 ドローイングの役割 238
6 自分の特性をみつける 239
あとがき 242