2023年のジョン・フォード没後50年に合わせ、ジョン・フォード関連の話題が多くなってきています。『ジョン・フォードを知らないなんて』(2010年、風人社)の著者、熱海鋼一さんにその魅力を語っていただきました。

今回は、その第22回目です。
※赤字「」は映画作品名

熱海鋼一 ジョン・ウェイン

西部劇の神様・ジョン・フォード(1894〜1973)の代表作と言われる「捜索者・The Searchers」(1956)は、アカデミー賞のどの部門にもかすりもしなかった。単なる西部劇と片付けられた。
サスペンスの神様・アルフレッド・ヒッチコック(1899〜1980)で言えば、代表作と言われる「めまい」(1958)は、作品賞・監督賞と無縁だった。

英国映画協会BFI「サイト&サウンド」誌2012年度ベストテンで、熱海鋼一さんの好きな作品 

英国映画協会BFI“サイト&サウンド”誌が10年に一度行う、世界中の映画評論家による『史上最高の映画』の2012年度ベストテンを見ると、1位に「めまい」7位に「捜索者」が入っている。

「めまい」は、あるトラウマを抱える男が、知人から死者にとりつかれた妻の探偵を依頼され・・・、深層心理の闇の渦に飲みこまれてゆく濃密なサスペンス、映像表現も凝っている。しかし、ヒッチコック本人は失敗作と言っていた。
「めまい」「捜索者」と同じように、上映当時より後に高く評価された。

ベストテンのうち、私が10回以上見たお気に入りの映画は、青字にしています。

1.「めまい」(1958/アルフレッド・ヒッチコック)第31回アカデミー賞:美術、録音部門ノミネート

2.「市民ケーン」(1941/オーソン・ウェルズ)第14回アカデミー賞:作品・監督など9部門ノミネート、脚本賞受賞

3.東京物語」(1953/小津安二郎

4.「ゲームの規則」(1939/ジャン・ルノワール

5.「サンライズ」(1927/F・W・ムルナウ)第1回アカデミー芸術作品賞受賞

6.2001年宇宙の旅」(1968/スタンリー・キューブリック第41回アカデミー視覚効果賞受賞

7.捜索者」(1956/ジョン・フォード

8.「これがロシアだ(カメラを持った男)」(1929/ジガ・ベルトフ

9.裁かるるジャンヌ」(1927/カール・テオドール・ドライエル)

10.「8 1/2」(1963/フェデリコ・フェリーニ)第36回アカデミー監督賞など5部門ノミネート 衣装デザイン賞(白黒)と外国映画賞を受賞

これらの作品は何年前に作られようが、映画史を飾り、今に生きている映画だ。
目を惹くのは、3位に「東京物語」が選ばれていることだ。さらに、映画監督が選ぶ「史上最高の映画ベストテン」では、1位を獲得している。

黒澤明・溝口健二は現役時に国際的に評価されたが、小津安二郎は没後、近年になり最高の評価を受けるようになった。小津スタイルは国宝級の佇まいだ。一体、誰が、小津の映画はあまりに日本的なので、外国人には分らないと決めつけたのだろう。そのため海外上映が遅れたのだから。

この連載“フォード復活”でも度々取り上げている「捜索者」は、フォードにとって6年ぶりの渾身の西部劇、題材はかねてから彼が映画化したいものだった。

ジョン・フォード作品

「捜索者」は、1836年に実際に起きた事件がベースとなっている。コマンチ族による、少女の拉致と凄惨な闘争をへて奪還する、西部開拓史で神話的悲劇と称された事件である。グレン・フランクル著『捜索者』に詳しく書かれている。

フォードは、この事件を元に西部開拓の真実に迫ろうとした。かつて自ら描いた“フロンティアの理想的な世界=アメリカ神話”を否定する、緊迫した暗い内容だった。主人公イーサンは、世話になった弟一家がインディアンに虐殺され、末娘が拉致された。弟の妻マーサはイーサンの秘めた恋人でもあった。彼はインディアンへの復讐に燃え、娘の救出のため、インディアンの未知のテリトリーへ向かい、容赦なく捜索にあたる。憎悪し、敵対する暴力VS暴力の行き着く先は? 捜索はイーサン一人でなく、マーサに育てられたインディアンとの混血の若者マーティンを加え、物語を重層化して深めている。

一家惨殺もインディアン虐殺も、今の映画のように残虐そのものを見せる描写はなく、暗示に止めている。今の観客がこれをどう感じるのか僕には分らない。拉致された娘を救ったとはいえ、決してハッピーエンドではない。ラストの「閉じられる扉のシルエット」が暗喩するものは、アメリカという国の闇の深さであることを、感じられるだろうか?

かつて、“フォード・テリトリー”とも言われたモニュメント・バレーを最も美しく描いた、カメラマンのウィントン・ホックの見事な撮影も讃えられてよいと思う。また、意固地な差別主義者を演じ、アメリカのアイコンと言われたジョン・ウェインの演技は凄まじく、まさにアメリカの暴力を体現した。

しかし、上映当時、ゴダールを除いて誰も、フォードの革新に気づかなかった。批評家からもアカデミー会員からも殆ど無視同然。日本でも、厳しすぎる内容にフォードらしくないと評論家は戸惑い、ファンも避ける感じが多かった。
フォードにとって、「捜索者」がまたもや西部劇というだけの低い評価となり、失望は大きかったろう。

死後評価されたジョン・フォードの作品 

フォードの心境の痛みは、その後の行動にあらわれる。

「捜索者」に続き契約の1本を撮り終えると、ハリウッドを離れて故郷アイルランドへロケに向かい、郷土愛を示す「月の出の脱走」(1957)を撮り、次に自らプロデューサーも兼ねた「最後の歓呼」(1958)では、市長選挙で大ベテランが軽薄な若者に敗れ、その悲哀を自分のことのように描く。両作とも心に沁みる地味な映画だが、自らの心境を吐露したものだ。
さらに続いて「ギデオン」(1958)をイギリスで撮る。フォードはボグドナビッチのインタビューに「しばらくアメリカを離れたかった。それで、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)の映画を申し出て決まったんだ」と答えている。

さらにフォードらしいのは、「ギデオン」の後、西部劇を立て続けに5本作ったことだ。フォードの意地を感じる。この5本の中に、西部の反神話を描いた傑作「リバティ・バランスを撃った男」(1962)がある。(ジョン・フォード復活6を参照

フォード(1973没)の死後、「捜索者」(1956)は、近代から脱却するポストモダンの作品として評価が高まり、熱狂的な支持を得ることになる。

●1989年アメリカ国立フィルム登録簿第一回、“ハリウッドが最初に残しておきたいと選んだ映画25本”に、フォードの「怒りの葡萄」「捜索者」が選出された。アメリカ国立フィルム登録簿 – Wikipediaをご参照下さい。

●2000年「20世紀の映画リスト」(米『ヴィレッジ・ヴォイス』紙発表)4位

●2007年AFI(アメリカ・フィルム・インスティチュート)が選ぶ100本では、1987年96位だったが12位に上昇

●2008年のAFIジャンル別トップテン、西部劇部門の1位

●2008年のフランスのカイユ・デ・シネマの史上最高の映画100本の9位

●2012年の英国映画協会BFI主催で、映画批評家が選ぶ世界の映画のベストテンで7位

2013年:「オールタイムベスト100」(米エンターテイメント・ウィークリー誌発表)12位

●2019年 全米映画撮影監督協会選出の“20世紀最高の映画100作品”で、「捜索者」(撮影ウイントン・C・ホック)が選ばれている。

「捜索者」はフォード復活で記したように、未知の境界に踏み込む暴力という闇の中で彷徨う執拗な探索が、次世代の心を掴んだ。

ジョン・フォード に影響を受けた監督がつくった映画

マーティン・スコセッシ「タクシードライバー」(1976)、ジョージ・ルーカス「スター・ウォーズ」(1977)、スティーブン・スピルバーグ「未知との遭遇」(1977)、マイケル・チミノ「ディア・ハンター」(1978)、フランシス・フォード・コッポラ「地獄の黙示録」(1979)などの作品に大きなインスピレイションを与えた。

ちなみに、スピルバーグは17歳の頃フォードを訪ねている。後に自伝的映画「フェイブルマンズ」(2022)でその出合いを描いた。

アカデミー作品・監督賞などを得た「許されざる者」(1992 クリント・イーストウッド)は、脚本家デヴィッド・ウエブ・ビーフルズが、「捜索者」の落とし子と言われる「タクシードライバー」を念頭に書いたと言う。しかも、イーストウッドはフォードの大ファン、フォードを観て育った。「怒りの葡萄」「静かなる男」「捜索者」などから影響を受けたと指摘されている。

1973年に79歳で亡くなったフォードにとって、こうした「捜索者」の評価の高まりと影響は、知り得ようがない出来事だ。これはアートの世界でよくある一挿話にすぎないにしても、フォードがあと7年生きていたら・・・・次世代が作った「捜索者」の申し子の映画たちをどう受け止めただろう?

ジョン・フォードに影響を受けた映画監督たち

アカデミー賞やカンヌなどの国際映画祭での受賞は、その映画や作り手のステータスになるのは確かだが、映画が優れていることの証明ではない。作品の一指標にすぎない。
フォードやヒッチコックの作品は、私には受賞などは関係ないことだった。映画自体が、面白くて凄いのだから。サスペンスの神様ヒッチコックは、今も信奉者が多くいるが、西部劇の神様フォードの命運は、いかに? 次回へ。

熱海鋼一記

熱海鋼一(あつみ・こういち)

1939年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。映画・テレビのドキュメンタリー編集・フリー。 「The Art of Killing 永遠なる武道」(マイアミ国際映画祭最優秀編集賞)、「矢沢永吉RUN & RUN」「E. YAZAWA ROCK」、「奈緒ちゃん」(文化庁優秀映画賞・毎日映画コンクール賞)、「浩は碧い空を見た」(国際赤十字賞)また「開高健モンゴル・巨大魚シリーズ」(郵政大臣賞、ギャラクシー賞)、「くじらびと」(日本映画批評家大賞)、ネイチャリング、ノンフィクション、BS・HD特集など、民放各局とNHKで数多くの受賞作品を手がける。

X(旧Twitter)(熱海 鋼一) @QxOVOr1ASOynX8n

熱海鋼一著『ジョン・フォードを知らないなんて シネマとアメリカと20世紀』(2010年、風人社、3000円+税)

【もくじ】
https://www.fujinsha.co.jp/hontoni/wp-content/uploads/2017/07/fordmokuji.pdf

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