宿坊が並ぶ大山門前町や懐かしのこま参道を抜けて

みなさん、こんにちは。
三寒四温の日々ではありますが、確実に春へと歩みを進めていますね。

さて、今回は「三の鳥居」から「大山ケーブル駅」手前の「茶湯寺」まで。
というのも、往路はケーブルカーで下社、そして山頂上社までのきついルートになるからです。
そこは、次回の最終回にてご案内としましょう。

*因みに、各スケッチはクリックすると拡大で見られますよ。

*ウォークマップ大山街道/三の鳥居ー二ツ橋ー新玉橋ー加寿美橋ー大山道標ー阿夫利神社社務局ー愛宕橋ー湧水工房ー不動明王ー大山まんじゅうー権田公園ー良弁滝と開山堂ー諏訪神社ー大山ケーブルバス亭ー千代見橋ーこま参道(入口)ー茶湯寺

大山街道26-01

いくつもの橋を渡って

はい、やってきました!
これが「三の鳥居」です。とってもシンプルな鳥居は、別名「せ組の鳥居」。江戸火消しいろは組の中で、京橋辺りを受け持っていた「せ組」が建立したことからそう呼ばれているそうですよ。なんだか粋なはからいですね。

大山街道26-02

ここから先は阿夫利神社の門前町となりますので、う〜ん、いよいよやって来たなぁって感じです。
街道の両脇には宿坊が並び、そのひとつひとつを見ているとどれもなかなかの佇まい。見入ってしまいます。
それに勾配が急になり、普通に歩いているとなんだか足が重たいのでよくわかります。因みに「三の鳥居」は標高180m、旧大山町の中心だった「阿夫利神社社務所」が220m、「良弁滝」は280m、そして「大山ケーブルカー追分駅」になると400mにもなるそう。
知らずしらずのうちに、今までとは全く違う勾配を感じながら自然と歩みがゆっくりになってきます。

大山街道26-03

この先もどんどん、こういった宿坊が競うように軒を並べます。
今でもちゃんと営業していて約50軒ほどあるのだとか!時々宿泊客と出会うことも。
神社に仕えた御師達が参拝に訪れる講の人らの安全祈願をし宿泊のお世話をしたのが始まりだそうです。日帰りでも食事や休憩・入浴で立ち寄る方もいらっしゃるみたいですね。
苔むした玉垣や冠木門、手水舎、建物の造りなど宿坊一つをとっても見どころ満載です。

その少し先に見えてくるのが「二つ橋」
江戸時代、ここには高札場が置かれていました。
街道から溝を挟み向かい側に湾曲した小径には、古い石橋が苔に覆われてあり、道祖神や小さなが立っています。

その先“いわえ”という宿坊の横道をあがっていくと伊勢原市立大山小学校です。

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実は「二つ橋」から更に進んだところに、最初の朱塗の橋「新玉橋」があるのですが、そこの道路上には、実に大きく“文”の表示があるのです。つまり、この街道は通学路でもあり近くに学校があるということですよね。
「石倉橋バス亭」から先、なかなか学校らしきものがありませんでしたが、ようやくここで小学校が登場。
篤い信仰をもとにたくさんの人たちが訪れ、観光地としても賑わった大山街道が通学路とは!!不思議と小学生にはお目にかかれませんでしたけれど、いやぁ、ここへ通う小学生は良い環境じゃないですか。

そんな思いを巡らせて「新玉橋」を渡り、両脇の宿坊にも目をやりつつ進むと、今度は「加寿美橋」
鈴川に架かる橋をいくつも越えていくのが、この大山門前町です。

「加寿美橋」の前には、ちょっと変わった鳥居のお稲荷さん。妙にこの鳥居の笠木部分が反り返っているんですよね。鳥居の形式にもいろいろあるようですが、これほど反ったのも珍しいかなぁ!

ここから旧道に入りましょう。更に宿坊が並ぶ並ぶ!

そして、その先には「阿夫利神社社務局」が見えてきます。
とても立派な建物で、ちょっとビックリしながら・・・この向かい側が坂本道、秦野市から伊勢原市を結ぶ大山古道です。車がなかった時代に住んでいた住民達が往来していたのだそうです。
今はそこに車が通る新道がぶつかっていますが、その新道沿いに大きな柱と石碑が立っています。
今回の冒頭、マップに描いたものがそれで、一番左端にあるのが「是より右大山みち」と書かれた道標で、藤沢市の四ッ谷不動に建てられていたものだそう。
造立は1661年(万治4)、現存する大山道道標のなかでも最古のものだとか。
また、「大山参道入り口」とある中央のは、1966年(昭和41)国定公園指定記念として参道の起点(旧大山駅バス終点)に建てられ、地元の人々や参拝者に親しまれてきたのだそうです。2008年(平成12)の道路拡張で撤去され保管されていたのですが、20年の歳月を経て発起人によって再建されたと説明板にあります。いずれも貴重な石碑というわけですね。

スケッチには描きませんでしたが、最古の道標の隣に立つ大きな御柱は、第56回を迎えた「伊勢原観光道灌まつり」に、姉妹都市の長野県茅野市から協力のもと「御柱里曳き」に使われたモミの木だそうです。

ということで、この貴重な石碑を見るために、新道へちょっと寄り道するのはあり!です。

「阿夫利神社社務局」を過ぎて、また朱色の橋が登場。
こちらは「愛宕橋」。ここで旧道と新道が合流します。ここも後で行く「良弁滝」同様、参拝する人たちが身を清めるために水行をした愛宕滝があります。
こういった滝で身を清める姿は、浮世絵にもなっているほどです。それだけ信仰心が篤かったということでしょう。

そしてその先程なく進むと、「湧水工房」という大山とうふの販売所があります。宿坊・東學坊より豆腐の販売として創業しました。
名前通り、大山のキレイな湧水が大山とうふの源。国産大豆と天然のにがりを使ったこだわりのとうふは本当においしいです。
定番のきぬから、茶葉やかぼちゃ、紫芋などの変わりとうふ、生湯葉などなど種類も豊富です。
ただお持ち帰りすることになるので、保冷袋・保冷剤などを用意してくださいね。

大山街道26-08

この辺りはもう、右も左も宿坊や豆腐店などが賑わい、キョロキョロしながら進むので、大した距離ではなくても時間はかかります。

いろいろと目移りする中、まもなく左手に「不動明王」の姿が。
たくさんのお札が貼ってあります。

勾配をあがっては、キョロキョロしているうちにお腹も大分減ってきました。
と、ついにやってきました大山名物「大山まんじゅう」「老舗和菓子良弁」
やはり、ここでひとつ大山まんじゅうで小腹をを満たしてから豆腐料理といきましょう!

大山街道26-05

江戸時代から150年以上続く「老舗和菓子店良弁」、添加物を一切使わず厳選されたこだわりの原材料でひとつひとつ手づくりをするお菓子は、地元民はもちろんのこと、観光客からも絶大なる人気を得ています。当時の参拝者たちも、きっと頬張ったことでしょう。沖縄産の黒糖を用い、ふわっふわの薄皮が特徴です。なかはこしあん。優しい味のあんが、疲れたカラダに浸みますねぇ。販売している間にもどんどん作っているらしいですが、1個から予約が可能なので、できれば事前に電話予約をした方が無難なようです。

少し元気を取り戻したところで、更に上がっていきましょう。
すぐ左に、大滝へ行く道があります。「日の出橋」を渡ると「良弁滝と開山堂」です。
「良弁滝」「大山寺」を開山した良弁僧正が、最初に水行をしたところだと伝えられているそうです。
高さは約4m、清涼とした空気が漂います。
大山には参拝者が身を清めた滝が6つあり“大山六滝”と言われています。なかでも一番の人気がこの「良弁滝」。先ほどもお話ししましたが、葛飾北斎ら多くの絵師たちが浮世絵に描いています。

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また1941年(昭和16)、当時消防の役割をしていた火消し「に組」が寄贈した竜の銅像が滝口に取り付けられ、よく見ると今もしっかりその姿と「に組」の札を確認することができます。

「開山堂」には43歳の良弁像と猿が金鷲童子(こんじゅどうじ)を抱いた像が安置されているらしいのですが、何やら良弁が幼いときに金色の大鷲にさらわれ、東大寺二月堂前の大杉に引っかかっていたのを山王権現の使いである猿に助けられた・・・という言い伝えからのようです。

「開山堂」から少し行くと「権田公園」です。
明治の初め、大山復興に尽力した国学者・権田直助の墓所があり、公園になっています。

「良弁滝前バス亭」から左側へ入る旧道「とうふ坂」へ進みましょう。
面白い名前ですが、大山の名物豆腐がありますからなんとなく納得の名前でもあります。
由来は、夏山祭りなどが行われる暑いさなか、参拝者たちが豆腐を手のひらにのせて歩きながら食べ喉を潤したことからのだそう!その光景、想像してみるととても楽しげでユニークです。
「阿夫利神社」までも後少し、参拝者らは最後の勢いをつけるためにも涼しげで喉ごしの良いとうふで元気を取り戻すと共に、本当に楽しみながら歩いたのではないでしょうか。

その「とうふ坂」が益々急になるあたりの中頃に、ひっそりとあるのが「諏訪神社」です。目立たないくらい小さいのですが、石段の上には鳥居もありますし、紅葉の季節にはなかなかの味わいをみせてくれます。

大山街道26-07

ここで、お昼っ!いや、もうペコペコです。
数多くある豆腐料理店のなかで、今日選んだのが「大山豆腐料理 無心亭」
鈴川沿いの宿坊だった古民家を今風にリノベーションして、1996年(平成8)から営業を始めました。
豆腐料理を次世代へも繋げ食して貰いたいと工夫を凝らした品々が人気です。
八穀米にあふりしゃもと自家製ゆばをたっぷりと入れた卵とじのゆば丼。優しい中にも旨味たっぷりのだし汁のパンチが効いて、ペロリ!でした。
また店の前には「大山名水」・・・一番相頓寺の岩清水が清らかで清々しい音を出しながら流れていて、自由に汲み置きできるのです!!二度美味しいとは、まさにこれですね。

「とうふ坂」を進み、「千代見橋」で鈴川を渡ると「こま参道入口」
ここへはもう何度も来ているのですが、本当に変わらない懐かしさがいっぱい漂っていて、土産物屋をはじめ食品店、大山こまの手づくり実演などなど、もう全体が駄菓子屋みたいな宝箱です。

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石段の数は362段、踊り場が27段。踊り場には数を表すコマが描かれていたり、階段の側面には飽きさせないようなクイズが書いてあったり・・・と工夫もされています。

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大山名物には忘れてはいけない「大山こま」もあります。

江戸時代には木地師と呼ばれる職人によってつくられ、その技が今も受け継がれているのだそうです。
朱・紫・藍の3色が基本。こまが回るとこの3色が実に美しく調和します。心棒にも特徴があって根本が細く、先端に向かって太くなるように削り出されるのですが、これは喧嘩独楽をするときに他のこまとぶつかっても倒れにくくするための工夫だと言います。

[コマがよく回る]と[世の中がよく回るをかけた縁起物で、古くから職人技の伝統と心意気がのこる逸品ですが、今ではこのコマ職人も数えるほどしかいませんので大変貴重な存在となりました。

「こま参道」を進む途中で「茶湯寺」の看板が見えたら、そちらへ行きましょう。

大山街道26-11

「茶湯寺」は死者の霊を一日の茶湯で供養する「百一日参り」の寺です。
供養に行くと必ず死者に似た人に会えると伝えられ、本尊の釈迦涅槃像は市の文化財です。
死者供養のためか、山内には数多くの石仏があるのも特徴です。苔むした静かな寺と石仏たちを前に、心があらわれるような空間です。
スケッチに描いた右端の石地蔵光背には丸に刻印があって気になっていたのですが、隠れキリシタンのものではないかと言われているようです。
ところでちょっと余談ですが、みなさんは古い石仏などによく見られる白い斑点のようなもの・・・よく見かけると思いますが、あの正体をご存じでしょうか?!
「茶湯寺」にはたくさんの石仏たちや石段、街道での道標など、とにかくしばしば目にします。
実はあれ、“コケ”の一種なのです。よく見るのはうぐいす色っぽいものとかですけれど、白いコケもあるんですね。一定の温度と湿度、日当たりの悪さや草木に囲まれていたりすると生えやすく、繁殖の速度も増すようです。

墓石と違って石仏や道標などは、コケの付着もある意味風格と歴史が出ていいかもしれません。

「こま参道」の左側は「もみじ坂」と言い、旧道です。

また「こま参道」へ戻り、続きの階段を上がりながらこちらでも左右の店を楽しみます。
大山川に架かる最後の橋「雲井橋」を渡ると、遂に「大山ケーブルカー追分駅」です。

今日はここまで。
長らくおつきあいいただきましたスケッチ紀行も、何とか無事に大山までたどり着きました。
さぁ、あともう一踏ん張りです!

次回、スケッチ紀行は最終回16日目となります。
往路はケーブルカーで下社まであがり、奥の院へ。そして復路はケーブルには乗らず、女坂を下りて「女坂の七不思議」を堪能します。

みなさんのご意見・ご感想もお待ちしています。

前回お知らせをしましたが、川崎市大山街道ふるさと館企画展示室にて約3年に亘り連載してきました大山街道スケッチ紀行の展覧会を前後半の2回に分けて開催することになりました。
前半は4月19日(土)~6月10日(火)、後半は9月6日(土)〜10月26日(日)です。
Sketch原画と拡大プリント、マップ&イラストほか、風人社の本書ホントに歩く大山街道とマップ販売などいろいろ考えていますので、どうぞお楽しみに!
別途チラシでのご案内もしますが、会期中に大山スケッチを振り返りといった講演も行います。

岡本和泉/Izumi Okamoto

さまざまな「デザイン」を通して、社会や地域、環境、食、観光、ものづくり、文化などをつなぎ 新たな展開をするプロデューサー&クリエイター。 2015年からは”暮らしのデザイン”の一部として、地域に密着し日々の楽しさを広げる 地域独自のイベントや企画、地域活動も手掛け、長年住む世田谷の文化や知的資源、 自然を活かした地域ツーリズムなども多く開催している。
http://www.imincosmos.com https://www.facebook.com/Setayui/

2022年8月、新たに合同会社Produce any Colour TaIZを設立。従来の企画デザインやプロデュース業などに加え、画像技術による画像処理分野に手を広げ、文化財や古い写真の修復・保存、天文写真再現、画像技術開発、講座なども展開する。
https://taiz.jp

【以下の書籍とマップで歩いて描いています】
中平龍二郎著『ホントに歩く大山街道』(2007年、風人社)
改訂新版ウォークマップ『ホントに歩く大山街道』(2021年、風人社)
中平龍二郎+編集部著『キャーッ! 大山街道!!』(2011年、風人社)

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ウォークマップ ホントに歩く大山街道
キャーッ! 大山街道!!