渡辺崋山も泊まった下鶴間宿
みなさん、こんにちは。
昨年より2週間も早く「春一番」が吹きました。
異様に暖かくなったりもしましたが、こうやって三寒四温を繰り返して本格的な春を迎えることになりますね。
さて、前回ご案内できなかった「鶴間駅」までの後半です。
ラストにはおいしいお店のご紹介もありますよ。
*因みに、各スケッチはクリックすると拡大で見られますよ。
*ウォークマップ大山街道/南町田グランベリーパーク駅ー町田辻バス停ー横浜水道道路ー大ヶ谷庚申塔ーX状の交差点ー日枝神社ー戸塚道ー圓成寺ー五貫目道祖神ー観音寺ー八王子街道ー大山阿夫利神社御分霊社ー下鶴間ふるさと館ー不動明王ー鶴林寺ー子育て地蔵尊ーまんじゅう屋跡ー下鶴間宿ー坂上厄除け地蔵堂ー巡見使道ー諏訪神社ー伊勢社ー山王(日枝)神社ー山王原公園ー大和歩行者専用道ー大山街道碑ー鶴間駅
「下鶴間宿」の後半
大山街道の「下鶴間宿」後半へと参りましょう。
昔から交通の要衝であったこの辺りは、本当にたくさんの街道・古道が入り交じり、現在でも交通量が多いのです。歩道が極端に高い上に狭く、民家入り口部分は車道と同じ段差にしているため、凸凹がかなり足にきます。もし二人連れであっても、仲良く横に並んで歩くのは不可能ですよ。無理をせず、縦一列で歩きましょう。
「鶴林寺」を過ぎてから少し行くと特徴的な三叉路があります。
ここにあるのが「子育地蔵尊」と「道標・まんじゅうや跡」です。
道標には「左 矢倉口」「右 星谷口」とあるそうですが、実際には読み取れません。横にある説明板には、渡辺崋山の『游相日記』に描かれた挿絵「まんじゅうや」があります。
実は、この大山街道スケッチ紀行ブログを毎回楽しみに読んでいただいている知人の一人から、渡辺崋山の『游相日記』に関する書籍を以前お借りました。
2冊あって、1冊は平塚信用金庫厚木支店が1965年(昭和40)に出版した『厚木と游相日記』、もう1冊が朝日選書 『渡辺崋山ー優しい旅びと』芳賀徹著です。
『游相日記』は三河国田原藩側用人渡辺崋山が、前藩主三宅友信が別離した相模国高座郡小園村に住む生母お銀に会いに行ったときの旅日記で、江戸から大山街道を通り、鶴間・小園・厚木・藤沢・横須賀を巡りながら道中で訪れる村々で出会う人々をはじめ衣食や自然風景などを写生入りで綴っているものです。
*後日、お銀の墓へは大山街道スケッチ紀行でも実際に訪れお参りしてきました。次回以降ご案内します。
以前青山の下りでもご紹介したのですが、大山街道といえば渡辺崋山の『游相日記』は欠かせない資料でもあり、読み解くと大山街道沿線で触れあう人たちの描写もイキイキとして、当時の様子を想像するにはなかなか貴重なものです。今回の「下鶴間宿」とこの先訪れる「厚木宿」では特に詳細に綴られ、現地でもその宿泊した所として解説板が設置されています。
その1冊、平塚信用金庫が出版したというのがおもしろい『厚木と游相日記』にある「まんじゅうや」の下りを抜粋してみましょう。こちらは渡辺崋山の『游相日記』を引用し、高橋慎吾編となっているものです。
この日、兎来が、下鶴間村の豪農長谷川彦八方へ、紹介の書状を書いてくれたので、崋山らは、それをもつて、長谷川家を訪れました。ところが、因果とその日は、長谷川家に人寄せがあって、ごつたかえしていましたので、匇々とそこを辞し、附近の旅籠屋角屋伊兵衛方へ宿泊しました。
長谷川彦八の屋敷は、現在、大和市下鶴間千九百四十一番地で、彦八の裔孫が、住んでいます。むかしの建物ではもちろんありませんが、大きな構えです。
角屋伊兵衛方は、俗称を「まんぢうや」とよび、大山参詣の道者たちに、名物の饅頭を売つたこともあつたと、いうことです。現在、大和市下鶴間千八百五十二番地、その建物は、いかにも古い旅籠屋のおもかげを随処に、とどめていました。いまは、しもたやに改造されていますが、各室ごとにあつたらしい床の間の床柱が、黒光りして古色をたたえ、長押の虫喰いの痕にも、百数十年の年歴がひめられています。この家の古財のなかには、当然崋山宿泊当時のものが、あまたのこつているとおもわれます。
角屋伊兵衛方に一泊した崋山らは、翌二十二日の朝、ここを立ち出でました。宿泊料は二百十六文づつでした。
鶴間原は、一望の広野で、むかしは、人影もまれな、荒寥の地であつたといいますが、現在はアメリカ軍の基地にちかいため、横文字の屋根看板が植民地のような色彩を、ハンランさせています。
下鶴間から、大塚、柏ヶ谷を経ると、小園、早川村もまぢかです。望地村の辻に、「左江戸道、右神奈川道」の石標が建つています。
ということで、この先でもまたご紹介していきますが、昭和40年に書かれたものなので、その頃の様子も垣間見られ興味深いです。
※2020年に開催されたあつぎ郷土博物館の特別展が、岡本さんがご紹介された書籍 『渡辺崋山ー優しい旅びと』のタイトルと同名でした。この展示には、弊社も『ホントに歩く大山街道』(中平龍二郎著、2007年)からのマップ提供で協力しました(下記リンク、厚木市のリンクが切れているものがあります)。いろいろつながります。
●あつぎ郷土博物館で渡辺崋山の展示(2020年9/19〜11/8)
さらにいろいろな街道をまたぐ・・・
その先には巡見使道との分岐点、左側へと緩くカーブする道です。朱塗りの「坂上厄除地蔵尊」が見えるのですぐわかります。1764年(明和元年)の銘が入り、道標を兼ね「左 大山道」「右 ざまみち」とあります。
さて、ここからちょっと寄り道をします。
「坂上厄除地蔵尊」を過ぎてから最初の左へ折れる細道を行きましょう。
T字路の向かい側には大きな鳥居と広々とした境内が見えてきます。これが「諏訪神社」。
「諏訪神社」は古来より式内石楯尾神社と伝えられていると沿革にあります。鎌倉時代中期には諏訪社として祀られたということですから、相当な歴史ですね。
ここはなんといっても、社殿に施されている彫刻が見事!!です。1858年(安政5)11月6日完成間近の社殿を大工の失火で焼失してしまったのですが、氏子たちの熱意によって1872年(明治5)7月に3年の歳月と多大な資財や労力をかけて再建したのだとか。とにかく、一度じっくり見てください。時間を忘れて見入ってしまいました。
そして次のT字路を右に行くと「伊勢社」。こちらも創建年代は不明ですが、江戸時代中期にはあったとのことですから、「諏訪神社」に続き街道歩きの旅人もお参りしたことでしょう。
「伊勢社」から先へ進み、元の大山街道へと戻ると直ぐ大きなX字四辻があります。これが滝山道と矢倉沢往還(大山道)の交差点で、角には「山王(日枝)神社」と二基の庚申塔があります。
それにしても、笠付きで三つの凹みがある庚申塔はかなり珍しいカタチだと思うのですが・・・・
どうしてこのようなカタチになったのでしょうね。庚申塔の形態を調べてみましたが、近いものはあるのですが、これぞという解答は得られませんでした。
庚申塔の横に矢倉沢往還の解説碑があります。
みなさんは矢倉沢往還をご存じでしょうか。大山道=矢倉沢往還と思っている方も多いと思いますが・・・。確かに重なるルートもあるのでややこしいですね。
簡単に説明しますと、江戸赤坂御門前から三軒茶屋、長津田、厚木、松田、御殿場を経て東海道・沼津宿に至るのが矢倉沢往還で、途中に矢倉沢関所が設けられていたことから矢倉沢往還と呼ばれるようになったそうです。
江戸時代に入ってから東海道の最も重要な箱根関所が設置されたことは、みなさんもご存じですね。矢倉沢関所とは、その箱根の脇関所で小田原藩の管理のもと定番人屋敷、蔵、番所で構成され通行人の取締を行っていたとのこと。箱根のほか脇関所は根府川、仙石原、川村、谷峨そして矢倉沢と5箇所もあったそうです(現在関所跡には石碑がある)。
元々は機内と東国を結ぶ主要街道(古東海道)でしたが鎌倉時代に箱根湯坂道の開通、江戸時代には箱根東坂・西坂が本道になったために裏街道へと変わってしまいました。
でも、江戸中期から庶民に大山講が盛んになり、宿駅が整備されていた矢倉沢往還が参詣道に利用されるようになると大山阿夫利神社までを別途大山街道(大山道)と呼ぶようになったのだそうです。
その先「山王原公園」を左に見ながら進むと、今度は現代の道「大和歩行者専用道」。
灌漑用水路として作られ利用されていたのですが、1973年(昭和48)に今のカタチになって遊歩道になりました。
ここまで来たら、「鶴間駅」も目と鼻の先ですよ。もう一踏ん張り!鶴間二丁目の交差点を渡れば旧R246とぶつかり、急激に人の通行や車が多くなります。
そして、駅の手前にあるのが「大山街道碑」。
さぁて、今日もたくさん歩きました。ここらでちょっと遅めのランチタイムとしましょう。
今日のコースは、途中に飲食できる店がほとんどありませんので、みなさんも栄養補給のおやつを忘れずにお持ちくださいね。
駅の周辺は賑やかな商店街が続きます。線路沿いを「中央林間駅」方面へ行くと、これからのランチが待つお店に到着です!!
「agrass Deli & Cafe」というオーガニック野菜の惣菜デリがいただける店で、外観はヘアサロンのようなシンプルでお洒落な感じです。
店内のウィンドウケースから好みで惣菜を選び、それにご飯・・・これも玄米と雑穀米、またはハーフをチョイス・・・とお味噌汁というのが基本スタイルです。
どの野菜もオーガニックで化学調味料なし、添加物なしの、それはまぁカラダに優しいメニューです。
テイクアウトも可能なので、おうちで楽しむこともOK!
そしてもう一軒ご紹介するのが、今度は「鶴間駅」に戻って逆方向の線路際にあるのがバナナジュースの専門店「BANANA LIFE」です。
お砂糖は一切使わず、バナナ本来の甘さと濃厚な味にいろいろなトッピングを楽しみながらバリエーションを味わうことができます。ドリンクだけでなく、バナナグッズもいろいろあって楽しいですよ。
よぉし!やっとお腹も満足したところで、おうちへ帰るとしましょう。
「下鶴間宿」の後編はここでおしまい。
次回スケッチ紀行は9日目のその1。
「鶴間駅」から綾瀬市、海老名市へ向かいます。お楽しみに!
みなさんのご意見・ご感想もお待ちしています。
岡本和泉/Izumi Okamoto
さまざまな「デザイン」を通して、社会や地域、環境、食、観光、ものづくり、文化などをつなぎ 新たな展開をするプロデューサー&クリエイター。 2015年からは”暮らしのデザイン”の一部として、地域に密着し日々の楽しさを広げる 地域独自のイベントや企画、地域活動も手掛け、長年住む世田谷の文化や知的資源、 自然を活かした地域ツーリズムなども多く開催している。
http://www.imincosmos.com https://www.facebook.com/Setayui/
2022年8月、新たに合同会社Produce any Colour TaIZを設立。従来の企画デザインやプロデュース業などに加え、画像技術による画像処理分野に手を広げ、文化財や古い写真の修復・保存、天文写真再現、画像技術開発、講座なども展開する。
https://taiz.jp
【参考図書】
中平龍二郎著『ホントに歩く大山街道』(2007年、風人社)
改訂新版ウォークマップ『ホントに歩く大山街道』(2021年、風人社)
中平龍二郎+編集部著『キャーッ! 大山街道!!』(2011年、風人社)
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