今までで一番の高低差を行く

みなさん、こんにちは。
今年は異様とも言える早さでさくらが開花した関東地方。
天候の不順もあって、なかなかゆっくりとお花見がしにくかったのでは?!
それでも、日本人にとってさくらは格別。
毎年花がほころび始めると、いよいよ来たか!と心躍るものです。

では、スケッチ紀行4日目その3
前回たどりついた「ねもじり坂」の入口からスタートしましょう。

*因みに、各スケッチはクリックすると拡大で見られますよ

*ウォークマップ大山街道/ねもじり坂(案内柱)ー笹の原子育地蔵ー梶が谷駅ー大山街道三叉路ー道標・庚申塔ー梶が谷交差点・末長歩道橋ー大山道旧道ー宮崎大塚ー王禅寺道ー庚申坂ー三又集落跡ー宮崎第二公園ー八幡坂てっぺん・八幡坂ー八幡神社ー庚申塔ー宮前平駅

のぼってくだって、起伏の激しい地形がつづく

「ねもじり坂」とは、奇妙な名前ですね。
この案内板は、ちょうど草木に囲まれて夏場は全く見えなくなります。今回、私も見落としてしまい、そのまま上へと進路を間違えてしまいました。
「ねもじり坂」の一番上で、この道につながりはしますが、不思議な名前の坂をきちんと通りたい!
と、また戻って歩いてみました。

ところが、この「ねもじり坂」・・・どうもその由来ははっきりしていないようなのです。
案内板にも「昔はもっと狭い急坂で、東京へ野菜を運び帰りには下肥を積んでくる牛車や荷車はあと押しがなければ上れないほどだったので、別名『はらへり坂』ともいう」とありました。

ただ、現在は実におもしろいアートな家があがって直ぐの左側にあって、思わず足を止めそのひとつひとつの表情をじっくり鑑賞してしまいました。
鉢植えや小さなポッドがたくさん並んでいて、そこにはそれぞれ愛くるしいストーンアートが描かれているのです。ここにお住まいのどなたかが描いているのだと思いますが、数もさることながら同じものが全くありません。

当時には絶対にない珍しい光景とでも言いましょうか・・・。とにかく、迫力があります。

なかなか急な上り坂をえっちらこっちらあがっていくと、ゴルフ練習場の大きなネットが見え「ねもじり坂」ではなくぐるっと湾曲した道へと出ます。
あぁ、上ってきました!

その左側に「笹の原子育地蔵」
昔、子どもの授からない夫婦が西国の百霊場を巡拝したので、そのお礼に建立したのだそうです。
今でもお参りをする人でしょうか、とてもキレイに整頓されています。

この辺りは溝口からアップダウンが激しく日陰もないので、歩く時期を考えないと結構大変な行程になるかもしれませんね。
ゴルフ練習場辺りから平坦な道になり、そのまま進むと「梶が谷駅」に出る「大山街道・三叉路」に着きます。ここから緩やかではありますが、「梶が谷駅」へは下り坂になっています。

三叉路のすぐ右側に突如姿を現すのがグリーンブック。古本を扱うショップのようですが、この景色のなか、唐突に出てくる感じです。なんの飾り気もないプレハブのような箱型の建物で雑誌や児童書、絵本、文庫、ハーレクイン・ノベルズ、エッセイ、ガイドブック、ペット本、コミックなどなど、まぁたくさんのジャンルの古本が並んでいます。
街道歩きの途中で、ちょっと一休みでしょうか。
因みに、14〜17時と営業時間が短いようなので、ご注意を。

グリーンブックを後に少し先に見えてくるのが「道標・庚申塔」で、側面には「大山道」と刻まれています。
立派な祠に花も活けられ、とてもキレイに掃除もされているのをみると、日々の暮らしの中で大切にしているのだなと思いました。

先には、車の往来が激しいR246が見えます。
ここが「梶が谷交差点」「末長歩道橋」を渡って向こう側へ移動します。そして
歩道橋から眺めると丘陵の一番上だというのがよくわかります。右手は渋谷、左手は荏田方面。前方を下れば登戸、後方は川崎下新城、どの方面も緩やかに下っています。歩道橋に上がると、こういった地形の変化や高低差がよくわかるのでおもしろいです。普段はいちいち歩道橋を渡るのかと面倒な気がしますが、こういう視点で捉えれば景色の見え方も違いますし、ここからの眺めもなかなかいいものです。

歩道橋を降りて、渋谷方面へ少し下ると「身代り不動尊(大名王院)」への坂道が。
妙に朱が際立つ建物で、あまり身代りという印象はないのですが、年始には大勢の人たちがお参りに行く姿を見かけます。

ここへの寄り道も、かなりの勾配を上り下りしますので休み休み行きましょう。
ちょうど上がったところ(R246手前)に公園があるので、休憩タイム! 木陰の風が心地よいです。

私は毎回 旅の友として“ちょっとおかしな袋”を持ち歩いています。中身はその時々によっていろいろ。キャンディーもあれば大好きなチョコ、小豆あんのミニ饅頭やクッキーも。
腰掛けられる所をみつけて、しばしの休憩タイムには欠かせない友です。
もちろん、旅の途中でみつけたお店に入って買う時もありますけれどね。いずれにしても元気補給です!

ここで寄り道メモ。
江戸時代のお菓子とは、どんなものだったでしょう。
室町時代から江戸時代初期には南蛮菓子が入って来たそうですから、ボーロやカステラ、カルメラ、ビスケット、金平糖などがあったでしょう。
それが江戸時代中期になると精糖技術が発達して、お菓子は大きく発展することになります。それまでは小腹を満たす“間食”だったのが、甘さを求める“嗜好品”となっていったそうです。
また、参勤交代によって地方の名菓が行き来をするようになり、大衆にも広がっていきます。昔は将軍家や宮廷の行事だったものも伝わって、3月3日の菱餅や5月5日のちまきなども普通に楽しむようになりました。

そして大山街道歩きで賑わう江戸時代後期には、浮世絵や草双紙などの出版も盛んになり、中には料理書や菓子書も出たようです。
道中の茶店では団子や菓子類、お茶などを売りました。時代劇にもお馴染みのシーンのひとつでしょうか。大福にきんつばのように小豆あんのお菓子は今でも人気ですね。

元に戻って「末長歩道橋」を降りた地点には、R246で分断された大山街道がつづきますが、あえて手前の細い道を行きましょう。緑に囲まれて風情があり良い雰囲気です。
ここをまっすぐ行った突き当たりくらいにある小高い塚が「宮崎大塚」。この前の道は大山街道の迂回路で旧R246でもあります。ウォークマップを見ると、「宮崎大塚」から南下してR246にぶつかり野川団地入口くらいまでR246に沿って、そこから有馬方面へと中へ入る道順。
今回終点の「宮前平駅」から坂を上って「小台坂公園」で本ルートに合流します。
こちらはまたいつか、元気いっぱいの時にでも歩くとして・・・っと。
「宮崎大塚」、元は円墳古墳らしいのですが詳しいことは不明だそうです。でも、まさにカタチは古墳!
大山街道を旅する人には目標のひとつでもあったと言います。
太平洋戦争中にはなんと、陸軍東部六十二部隊の高射砲陣地が置かれていたのだとか。本当に古墳だとしたら、その主はおちおち眠ってもいられませんね。

「宮崎大塚」から大山街道へ戻りましょう。
左に折れると右手に斜めへと入る道「王禅寺道」があります。
これは川崎市麻生区の古刹王禅寺を導く道ですが、大山参りにも使われたそうです。
王禅寺と言えば・・・小さくて丸い禅寺丸柿、甘柿では日本で最古の品種だと言われていますね。
私は大学生の途中で、玉川学園へ家が引っ越したため、禅寺丸柿はよくいただきました。ワインやお菓子など様々な加工品開発も盛んで、立派な地域産物です。
そして、柿生という地名のルーツでもあります。

この入る辺りがなんともいいですねぇ。時間と体力があれば、ここから王禅寺まで・・・もいいのですが今回は入口で断念。想像で王禅寺までの旅を思い描くとしましょう。

そしてまたまた道はアップダウンのダウン、長い下り坂が見えてきました。
「庚申坂」です。この近くに庚申堂があったことから名前が付けられました。現在、庚申塔は見あたりませんでしたが、『ホントに歩く大山街道』には馬絹へ移転と書いてあります。
この長い坂は、その先がまたまた上っているのが遠目にも見えます。谷底へ行って再びよじ登る感じですね。
4日目の旅の終わりには、こうした試練が何度となく待っていたのです!

終点へ向けて、まだまだ・・・

長い「庚申坂」の右斜面には三又集落がありました。
そちらが昔の大山街道だったらしいのですが、今は住宅地として開発されてしまって街道の痕跡はありません。明治から大正にかけて三又集落は花作りで有名だったそうですから、斜面には色とりどりの花々が咲き誇ってキレイだったでしょうね。
そのほかの江戸時代後期・大山街道沿いはどうだったのでしょう。当時の旅人は主に男性ですが、花を愛でる気持はあったでしょうからね。

さぁ、ここから今日最後のアップダウン!
「宮崎第二公園」まで来たら左に折れると宮崎台駅
そこはスルーして・・・
緩やかな坂とはいえ、段々足が重たくなってきました。
「宮崎二葉幼稚園」を目印にその先の広い道へと進むと、「八幡坂」のてっぺんに着きます。
この坂を下りながら右へ湾曲すると、東急田園都市線が見え今回終点の「宮前平駅」。そして、駅の向かい側にあるみどりの森が「八幡神社」です。

「八幡神社」はおもしろいことに半分に分かれ、「八幡神社」「小台稲荷神社」となっています。
ひとつの社殿に、旧土橋村と旧馬絹村のご神体が祀られているのですが、長い階段が空の森へ伸びるように続いているのが印象的。終点の「宮前平駅」の前に、この階段を上がらなければ!!
最後の気力を振り絞って歩みを進めると、その途中に「庚申塔」がありました。昔の大山街道はこの祠の直ぐ横を通っていたと言いますから、現在より視点が高くなっていましたね。

最後はこの高台からの眺めがご褒美です。
見渡す限り丘陵の斜面に家々が建ち並び、縫うように道が通っています。谷底を走るのが田園都市線
しばしここからの眺めを楽しみながら疲れた足を休め、帰りの駅へと向かいました。
いやぁ、流石に今日は疲れましたが、無事に「宮前平駅」に着いて一安心です。

さて、次回からは5日目のその1。
「宮前平駅」から出発し、鷺沼の先まで行きます。次はどんな光景が待っているでしょうか!
みなさんのご意見・ご感想もお待ちしています。

岡本和泉/Izumi Okamoto

さまざまな「デザイン」を通して、社会や地域、環境、食、観光、ものづくり、文化などをつなぎ 新たな展開をするプロデューサー&クリエイター。 2015年からは”暮らしのデザイン”の一部として、地域に密着し日々の楽しさを広げる 地域独自のイベントや企画、地域活動も手掛け、長年住む世田谷の文化や知的資源、 自然を活かした地域ツーリズムなども多く開催している。
http://www.imincosmos.com https://www.facebook.com/Setayui/

2022年8月、新たに合同会社Produce any Colour TaIZを設立。従来の企画デザインやプロデュース業などに加え、画像技術による画像処理分野に手を広げ、文化財や古い写真の修復・保存、天文写真再現、画像技術開発、講座なども展開する。
https://taiz.jp

【参考図書】
中平龍二郎著『ホントに歩く大山街道』(2007年、風人社)
改訂新版ウォークマップ『ホントに歩く大山街道』(2021年、風人社)
中平龍二郎+編集部著『キャーッ! 大山街道!!』(2011年、風人社)

ウォークマップ ホントに歩く大山街道
キャーッ! 大山街道!!