2023年のジョン・フォード没後50年に合わせ、ジョン・フォード関連の話題が多くなってきています。『ジョン・フォードを知らないなんて』(2010年、風人社)の著者、熱海鋼一さんにその魅力を語っていただきました。

今回は、その第11回目です。
※赤字「」は映画作品名

熱海鋼一 ジョン・ウェイン

ジョン・フォード復活11 「リオ・グランデの砦」でディキシーに出会う

ジョン・フォードと言えば、アカデミー監督賞を史上最多の4度も得た、ハリウッドを代表する巨匠。西部劇が得意なアイリッシュ。アメリカ史をよく描き、作品は正当で王道をゆき、映像は詩的で、表現は簡潔と言われる。だが、待てよ、それだけではない。僕は、フォード独特の反骨的で破天荒な魅力に惹かれたのだ。

その型破りな魅力の一つに、フォードの“ディキシー好き”がある。僕がそのディキシーと出会ったのは、なんと騎兵隊三部作の「リオ・グランデの砦」であった。
“ディキシー”とはアメリカの南部諸州を指す通称だが、この項でいうディキシーは音楽を指します。その名が良く知られるようになったのは、南北戦争(1861年4月〜1865年4月)が始まる3年前に、南部の綿畑の大地などの故郷を想う歌(曲名は“ディキシー”)が作られ、戦争が始まると南軍の行進歌として広まったからだ。ただし、奴隷解放のために戦った北軍・騎兵隊にとって、ディキシーは敵・南軍を象徴する音楽なのだ。

フォード 騎兵隊三部作

騎兵隊三部作は第二次世界大戦終了後、アメリカ開拓の最前線を描き、「アパッチ砦」(1948)「黄色いリボン」(1949)「リオ・グランデの砦」(1950)の順で作られた。しかし、日本での上映は「アパッチ砦」が最後で、製作から5年後であった。
当時アメリカの占領下にあった日本では、進駐軍司令部が上映禁止としたのだ。映画の内容が、隊長のミスリードにより、騎兵隊一部隊がインディアンに全滅にされる話だったからだ。しかも、その隊長が国の英雄に祭り上げられるという、皮肉な矛盾まで描いていた。フォードは、“英雄伝説は、事実を曲げてでも国にとって必要なもので、こうして作り上げられたんだ”とインタビュー※に答えている。

フォード アパッチ砦

戦勝国アメリカにとって、この不名誉な真実を、占領下の日本人に見せるわけにはいかなかった。日本が独立した翌年2年後の1953年に封切りされた。「アパッチ砦」は全体にリアルに徹し、特にラスト35分にわたる進軍、裏切り、戦闘と続くシーンは、緻密に描かれ圧巻だ。
ちなみに、アメリカの恥部、大恐慌時代に搾取され追われゆく農民家族を描いた、フォード渾身の「怒りの葡萄」(1940)は、なかなか許可されず、日本では製作から23年後の上映となった。

「黄色いリボン」はカラー作品。映像は美しく詩的で、ロケ地のモニュメントバレーも目を見張った。アメリカ版ブルーレイでは、その美しさがよく分かります。主役は、定年を迎えた大尉ブリトルズ(ジョン・ウエイン)。しみじみとした、人情味あふれる騎兵隊もので、戦闘シーンもほとんどない。フォードは3作の中で、これが一番のお気に入りと語っている※。

フォード 黄色いリボン

「アパッチ砦」ではインディアンの正当性をも描いたが、「黄色いリボン」では、“騎兵隊が通り、戦い、守った所(インディアンを虐殺し、略奪し、進軍する所)がアメリカ合衆国だ”と、一方的にフロンティアを賛歌した。白人から見た建国の誇りを素直にあらわしている。

そして三作目「リオ・グランデの砦」は、リラックスした作りで、獰猛なインディアンとの闘いのシーンも多く、娯楽性に富んでいる。隊を仕切るヨーク中佐(ジョン・ウエイン)と南部出身の妻キャサリーン(モーリン・オハラ)夫婦は離反の危機にあり、反発した息子は無断で軍へ志願。偶然にも、父が率いる部隊に配属される。家族がらみの葛藤から、インディアン討伐の危機をへて、絆を取り戻す話が軸となっている。

フォード リオ・グランデ砦1

話の後段、インディアンの襲撃に備えるため、部隊の家族を砦に移動中、逆にインディアンに襲われ、子供たちが拉致されてしまう。騎兵隊はそれを追ってメキシコへ越境して戦い、子供たちを助ける。即ち“強いアメリカは、正義のためには国境を越えて戦う”、条約を破る国境侵犯であってもだ。あっけらかんと描かれているが、怖い話なのだ。

しかし、この映画が単なる爽快な印象を越えて魅力的なのは、フォードの反骨精神が織り込まれているからだろう。
新兵の一人タイリー(ベン・ジョンソン)は、殺人容疑で保安官に追われている身なのに、騎兵隊は彼を信じて庇うのだ。ベンはもともとカウボーイで、今時、中々出会えない見事な乗馬シーンには惚れ惚れする。

フォード リオ・グランデ砦2

インディアンの疾走する馬を後ろから猛スピードで追い抜くやいなや馬ごと蹴倒し、激走する仲間から抛られた拳銃をキャッチし、次には自分の馬を飛び降りるや、その馬を引き倒し、拳銃の台替わりにして迫り来るインディアンを撃ち落すという連続離れ業をやってのける。

そしてラストのインディアン討伐を成功した騎兵隊の式典。タイリーは武勲により表彰される一人だが、彼を逮捕しようと保安官が現れると、ジョン・ウエイン演じる中佐が彼に休暇を与える。すると、彼は将軍の馬を拝借して、意気揚々と逃げ去る。権威を足蹴にして、実に痛快だ。

フォード リオ・グランデ砦3

さらに、騎兵隊の行進のために将軍が選んだ曲は、なんと南軍の行進曲ディキシーなのだ。つい最近まで戦っていた敵軍の曲である。夫とよりを戻し、騎兵隊に帰ってきた南部出身の婦人にささげる次第だ。その時に廻すパラソルとモーリン・オハラの晴れやかなこと。
と、見た時には思ったのだが、後年いろいろな映画を観られるようになって、実はディキシーを選んだのは、将軍ではなくフォード自身に違いないと思うようになった。
次回は、ディキシーという軽快でノリが良い音楽に惚れ込んだ、フォードと出会っていこう。

熱海鋼一記

※ピーター・ボグダノヴィッチ著『インタビュー ジョン・フォード』より

熱海鋼一(あつみ・こういち)

1939年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。映画・テレビのドキュメンタリー編集・フリー。 「The Art of Killing 永遠なる武道」(マイアミ国際映画祭最優秀編集賞)、「矢沢永吉RUN & RUN」「E. YAZAWA ROCK」、「奈緒ちゃん」(文化庁優秀映画賞・毎日映画コンクール賞)、「浩は碧い空を見た」(国際赤十字賞)また「開高健モンゴル・巨大魚シリーズ」(郵政大臣賞、ギャラクシー賞)、「くじらびと」(日本映画批評家大賞)、ネイチャリング、ノンフィクション、BS・HD特集など、民放各局とNHKで数多くの受賞作品を手がける。

twitter(熱海 鋼一) @QxOVOr1ASOynX8n

熱海鋼一著『ジョン・フォードを知らないなんて シネマとアメリカと20世紀』(2010年、風人社、3000円+税)

もくじ
https://www.fujinsha.co.jp/hontoni/wp-content/uploads/2017/07/fordmokuji.pdf

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