溝口宿の古いまちなみを楽しむ
みなさん、こんにちは
立春も過ぎ、少しずつ柔らかくなった陽とともに、小さな春を感じはじめますね。
梅は澄んだ空に映え、いい香りを放っていますし、さくらをはじめ、春の樹木は蕾が段々膨らんできて ちょっと心うれしいです。
では、スケッチ紀行4日目その2。
大山街道ふるさと館をあとに先へと進みますが、今回は「ねもじり坂」の入口までをたどります。
*因みに、各スケッチはクリックすると拡大で見られますよ。
*ウォークマップ大山街道
大和屋ー二ヶ領用水ー大石橋ー稲毛屋金物店ー甲州屋ー旅籠亀屋跡ー溝口神社ー七面山ー宗隆寺ー栄橋ー溝の口駅西口商店街ー片町の庚申塔ーねもじり坂
宿場に軒を連ねる商いの面影
「大山街道ふるさと館」を出て隣が「大和屋」。増子焼きの人間国宝・濱田庄司の実家だそうですが、現在はお洒落なベーカーリーとレストランになっていました。
ちょうど良い時間だったので、まずは腹越しらえといきましょう。
ということで、今回はお店の紹介がトップバッター。
「Len」は川崎の地場野菜をたくさん使って、ヘルシーでボリューム感いっぱいのメニューを提供しています。
ランチメニューは、サラダやデザートもチョイスして楽しめます。さすがに野菜が盛り盛りで食べごたえ充分!
しばらく「溝口宿」の商店街が続き、おいしい店もたくさんあります。そんな中にところどころ当時の店も現存し、カタチを換えて営業を続けたり廃業したりとさまざま。
今も昔も、商店街を歩くのは楽しみのひとつでしょう。
「大和屋」跡の向かい側には、「岩崎酒店」と「丸屋」があります。
「岩崎酒店」は現在、「糀ホール」「糀ギャラリー」として甦りました。大きくて立派なホールは、この界隈にて一際目立つ存在。正面の佇まいは昔の酒店の名残があり、ホールの後ろ側には蔵が残っているようです。
「丸屋」はふとん店。昔のままのような雰囲気ですが、営業を続けているのかはちょっとわかりませんでした。当時は溝口・名主の家らしく、人馬などを供給する問屋役だったそうです。
相模地方の産物を江戸に送る道でもあった大山街道には、伊勢原、厚木、国分、下鶴間、長津田、荏田、溝口、二子などに人馬継ぎ立場があったそうです。
本書には、橘樹郡の観光案内も行い、「武蔵玉川八景」を刊行している とあります。橘樹は多摩丘陵を指すのでは だそうですから、なかなか商売熱心でいろいろやっていたのですね。
「丸屋」の先に見えてくるのが「二ヶ領用水」に架かる「大石橋」。
「二ヶ領用水」は、家康の命により造られた農業用水で、二子玉川でも出てきた小泉次大夫が15年もの年月をかけ1611年(慶長16)に完成させました。
神奈川県下で最も古い人工用水は全長約32km、2020年3月には登録記念物になっています。沿道にはさくらが植えられ、遊歩道をのんびり歩くのもいいでしょう。
「大石橋」を渡ってすぐにあるのが「稲毛屋金物店」と「甲州屋」。現在はどちらもマンションになっているので、気づきにくいです。
天保年間創業の「稲毛屋金物店」は大名屋敷などへ、薪や炭、米などを納めていたそうですし、「甲州屋」は人形店だったとか。
当時を思い浮かべると、なにやら楽しいですね。
その先の交差点が溝口駅入口。
この角には、旅籠亀屋がありました(「旅籠亀屋跡」)。高津図書館にあった「国木田独歩の碑」は、初めこちらにありました。国木田独歩が訪れた頃は生糸の輸出が盛んで、まゆの仲買人が大勢来て泊まったそうですから、さぞかし賑やかだったでしょう。
その向かい側にある「飲茶屋月」。盛り付けがお洒落な感じです。飲茶はバリエーションが多くていいですよね。本格中華が楽しめると地元では人気だそうです。
但し、こういうランチを食べると お腹がきつくて・・・その先へ行くのが嫌になっちゃうかも?!
街道歩きは食べものも楽しみの一つですけれど、食べ過ぎは禁物です。
交差点を渡ってちょっと行くと、鳥居が見えます。ここが「溝口神社」。
かつては溝口村の鎮守・赤城大明神と称されていました。明治維新後の神仏分離の法によって御祭神を改め「溝口神社」と改称したそうです。
お参りして神社を出ると先の右奥に、こんもりとした丘陵が姿を見せます。これが「七面山」。
津田山と呼ばれている「七面山」は、七つの尾根から出来上がっていたようです。ちょっと緑が少ない溝口周辺にとっては、清涼感漂う自然の美しさといったところ。
そして、この麓にあるのが七面天女を祀る「宗隆寺」。
中には、松尾芭蕉の句碑や陶芸家・濱田庄司生誕の地を示す碑があります(墓もある)。丘陵を背にして広々とした境内で一服しましょう。
この辺りは大山街道のイキイキとした感じが残っていて、あちらこちらに眼がいきます。
道幅もさほど広くないのに車や人の往来が激しく賑やかですが、どこか懐かしい雰囲気があって個人的には好きな空間、なにげない脇道さえ妙に惹かれます。今では店も閉店してシャッターが降りっぱなしなのか、はたまた夜の時間帯にはガラガラッと開いて地域の方達の笑い声が聞こえるのかも?・・・。
こういう路は、その先へついつい行ってみたくなるものです。
今はどこの駅も同じような造りになって、見あげるようなタワマンとこれまたどこも同じようなテナントが集まるファッションストリート風のショッピング街が多くて、なんだか味気ない気がします。
若い人たちにとっては、それがいいのかもしれませんけれど・・・。
溝口も反対方面(東口)は駅前開発され、ロータリーや大きな商店ビルなどが並び、全く違いますね。
と、歩くうちに大きな交差点が見えてきました。南武沿線道路と交わる「栄橋」です。
溝口村と下作延村の境だったため境橋と昔は呼ばれていたそうですが、にぎやかなまちなみには栄のほうがピッタリ。
でも土地としては低いところなので、よく川の氾濫などで大変だったらしいです。交差点を渡った向かい側に、大きな大山街道の案内板と「栄橋」の親柱があります。
溝口は今も尚、大山街道を人々に伝える努力をさまざまにしていますねぇ。「えらいっ!」
昭和を訪ねるひととき
そして南武線を越えると、左側奥からなんとも不思議な光景が視界に入ってきます。
今はもう余り見ることのないアーケードっぽい屋根に覆われ、ちょっと薄暗いのですが・・・だから、そそられる空間といったところでしょうか。
その名も「溝の口駅西口商店街」。
いやぁ待ってました! というワクワク感満載の商店街です。菓子屋、八百屋、飲み屋といろいろ。昼間から一杯! なんてぇのも似合うような昭和ストリート。雨が降ったって、へいっちゃら。
かえって雨音さえも楽しめるのでは?!
線路の真横に上手にはまっているこの商店街、みなさんもぜひ寄ってみてください。
わが家近くの下北沢にも、駅前開発以前には下北澤驛前食品市場というのがあって、なんだか探険に行くような雰囲気がおもしろくて、高校時代にはよく足を運んでいました。こういうところは本当に残して貰いたいのですが、地震対策とか老朽化だの、開発道路にまたいでいるからなどで壊されていくのですよねぇ。
町田や三軒茶屋にも、まだ昭和の香り漂うこんなエリアが残っていますけれど、いつまで私たちを楽しませてくれるでしょう!!か。
そして、この街道沿いにあるドイツ菓子の店が、またなんともいいのです。
古い洋菓子店の雰囲気が表のタイル貼りからも感じられるし、そんな店構えが かえってあったかぁい「ドイツ菓子 フォルジュ」。
最近はまたバームクーヘンがいろいろと流行っているようですけれど、だいたい今風のお洒落なつくりです。でも、フォルジュのバームクーヘンはきっちりドイツ菓子。それに、今はなかなかみつけられないサバランや元祖(?!)モンブランなどもあるのです!
なぜか子どもの時から、このシャビシャビの洋酒漬けサバランが好きだった私にとっては、とても嬉しく貴重なケーキ店です。
そう、これも昭和の味!なのです。
この先に、「陶芸家・濱田庄司」生誕の地の碑と「片町庚申塔」があります。
庚申塔は道標も兼ねていて、「東江戸道 西大山道 南加奈川道」と刻まれています。三猿の庚申信仰は平安時代に始まるらしいです。立派な祠に置かれ、花も添えられていました。
さて片町交差点を過ぎると、街道は緩やかなカーブになり段々上り坂へと変化します。少し上ると左側に入る「ねもじり坂」が見えてきます。
この先もなにやら楽しげなものが待っているような・・・気配。
というところで、今回は終わりましょう。ここからは起伏の激しい道が続き、「宮前平駅」へ向かうことになりますが先が長いので、この先は次回ご案内します。
次回スケッチ紀行は4日目のその3。
その2で宮前平まで行くつもりでしたが、ちょっとスケッチ立ち寄りが多いので3回に分けることにします。起伏の激しい大山街道、まだまだ楽しみも一杯ですよ。
みなさんのご意見・ご感想もお待ちしています。
岡本和泉/Izumi Okamoto
さまざまな「デザイン」を通して、社会や地域、環境、食、観光、ものづくり、文化などをつなぎ 新たな展開をするプロデューサー&クリエイター。 2015年からは”暮らしのデザイン”の一部として、地域に密着し日々の楽しさを広げる 地域独自のイベントや企画、地域活動も手掛け、長年住む世田谷の文化や知的資源、 自然を活かした地域ツーリズムなども多く開催している。
http://www.imincosmos.com https://www.facebook.com/Setayui/2022年8月、新たに合同会社Produce any Colour TaIZを設立。従来の企画デザインやプロデュース業などに加え、画像技術による画像処理分野に手を広げ、文化財や古い写真の修復・保存、天文写真再現、画像技術開発、講座なども展開する。
https://taiz.jp
【参考図書】
中平龍二郎著『ホントに歩く大山街道』(2007年、風人社)
改訂新版ウォークマップ『ホントに歩く大山街道』(2021年、風人社)
中平龍二郎+編集部著『キャーッ! 大山街道!!』(2011年、風人社)