2023年のジョン・フォード没後50年に合わせ、ジョン・フォード関連の話題が多くなってきています。『ジョン・フォードを知らないなんて』(2010年、風人社)の著者、熱海鋼一さんにその魅力を語っていただきました。

今回は、その第1回目です。
※赤字「」は映画作品名

熱海鋼一 ジョン・ウェイン

熱海鋼一 ジョン・フォード復活<1>「アパッチ砦」

アメリカの著名な映画監督ジョン・フォードについて蓮実重彦の本が発売され、渋谷のシネマヴェーラではフォードの映画上映が始まりました。来年(2023年)はフォード没後50年再来年(2024年)は生誕130年になります。

書斎 ジョン・フォードに囲まれて

熱海鋼一さんの机。ジョンフォードに囲まれて

私は映像の編集者で、昨年はドキュメンタリー映画「くじらびと」も公開されましたが、映画との関りはジョン・フォードが原点でした。私が高校生の頃には今のようにDVDなどなく、雑誌などでその名を見るだけで元気づけられていました。

でも、今の若者たちがジョン・フォードをどのくらい知っているのだろうか?
先日ツイッターで見たアンケートで、小津安二郎や溝口健二を知る人が2割を欠けていることに衝撃を受けましたが、逆に、私が今の監督をどれだけ知ってるかと問われれば数人くらいとなるので、この「情報自在時代」の世代差が、かつてより大きくなっていると感じました。

アパッチ砦

7月22日の「朝日新聞」で蓮実氏がフォードの記事を書いていましたが、「アパッチ砦」を取り上げていました。これは、私が2010年に著した『ジョン・フォードを知らないなんて』で最初に挙げた作品です。第2章の1「アパッチ砦『国は偽る』」という項ですが、国民の英雄がいかにでっち上げられるかという、歴史の矛盾をそのまま見せています。しかも「アパッチ砦」は、迫害を受けた先住民の怒りの正当性を打ち出した先駆的映画で、ラスト前では騎兵隊をせん滅させ、奪った連隊旗を後方で陣取っていたジョン・ウェイン率いる部隊の前に突き刺すロングショットは圧倒的な迫力で、目が眩むような描写でした。映像だけでここまで表現できる! 近頃の日本映画では群を抜いてスケールが大きく面白い「キングダム」のスタッフに、是非見てもらいたいものです。

しかし、当時「アパッチ砦」は単なる西部劇で軍讃美の映画、と片付けられていました。ジョン・フォードが「保守で右翼」と言われていることに蓮実氏も反発し、否定していますが、ハリウッドで左翼映画と評された「怒りの葡萄」を作り、「若き日のリーンカーン」「駅馬車」から「荒野の決闘」「捜索者」「リバティバランスを撃った男」……、まさにアメリカを描いた作家でした。
若いころはアメリカ賛歌だった彼は、晩年に近づくと、信じていたアメリカに裏切られてゆく心情を吐露して苦渋を増し、革新的なジョン・フォードになっていきます。いわばイーストウッドの映画歴がそれをなぞっていますが、ジョン・フォード作品は「アメリカの時代の写し絵」とも言える、二重の魅力があります。

熱海鋼一記

熱海鋼一(あつみ・こういち)

1939年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。映画・テレビのドキュメンタリー編集・フリー。 「The Art of Killing 永遠なる武道」(マイアミ国際映画祭最優秀編集賞)、「矢沢永吉RUN & RUN」「E. YAZAWA ROCK」、「奈緒ちゃん」(文化庁優秀映画賞・毎日映画コンクール賞)、「浩は碧い空を見た」(国際赤十字賞)また「開高健モンゴル・巨大魚シリーズ」(郵政大臣賞、ギャラクシー賞)、「くじらびと」(日本映画批評家大賞)、ネイチャリング、ノンフィクション、BS・HD特集など、民放各局とNHKで数多くの受賞作品を手がける。

twitter(熱海 鋼一) @QxOVOr1ASOynX8n

※今回のお話しは、『ジョン・フォードを知らないなんて』第2章 1.アパッチ砦「国は偽る」(p.32-50)に詳しい記述があります。本書ではさらに熱さ倍増です。

熱海鉱一著『ジョン・フォードを知らないなんて シネマとアメリカと20世紀』(2010年、風人社、3000円+税)

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