(お)記

課外授業ようこそ先輩 別冊 綾戸智絵 ジャズレッスン
課外授業ようこそ先輩 別冊
綾戸智絵 ジャズレッスン
2000年10月28日発行

テレビ番組を単行本にしたものは、テレビの映像と音楽以上の力を書籍が担うことができない、と思っている人は多い。「邪道だ」と言った声も聞いた。テレビの本は、出生から不幸だなと感じている。
そんなことはないですよ。文字の力はすごい、ということを上記の『渥美清の伝言』 のところで、しつこく述べておいた。こちらを先にお読みの方は、ぜひざっとお目通 しくださるとうれしい。

この本は、編集者としては大変心に残る嬉しい本だが、まだ作り終えた余韻が残って、今は、生々しいことを詳しくは書けない。お陰様で、今日(2000年10月31日)、増刷が決定して、一安心だ。
放送番組を家で見たときは、なかなかの迫力で少し興奮気味なテンションになった。ただ、いつも、「この番組は本にできるか」という見方も忘れているわけにはいかない。「音楽でなかったら・・・」と、すぐに本にできると考えたわけではなかった。

テレビ番組では、ゴスペルを歌う子どもたちや、LET IT BE の子どもたちのテープ聞き取りが非常にうまく構成されていて、そのぶん、そこだけを文字化しても、音楽は本からは伝わらない。テレビと書籍の違いをうまく活かして編集できるか、それが問題だった。

今、本のオビの背に「本でライブを」と書いたことをちょっと反省している。「読むアヤド!」がよかったか。最後の段階で版元責任者永井さんのアドバイスで、授業以外のライブテープを起こして、もうひと踏ん張り、巻頭にライブトークを入れさせていただこうかと検討していた。掲載がだめなら、限定一部のライブ記録冊子を作って、綾戸さんにプレゼントすればいい、と思って作業した。
結局、それはオビ裏の「ライブのトークから」という形で読者に提供できた。ライブビデオの感動が、そのままの勢いで、「本でライブを!」ということになった。音楽が読者にわき起こってくるようなライブ記録にできればいいのだが、と思った。

番組プロデューサーの鈴木ゆかりさんの示唆が、非常に貴重だった。そのおかげでこの本は、課外授業に忠実に文字化する方針がうまくいったと思う。人生も音楽も、文字の力で読者の胸の内で響いて欲しい、そういう思いで原稿整理は5~6回は要し、だいたいの形ができてから以降の完成までにかなりの労力と時間を要した。

文字は、特定の映像や音を読者に強要しない。この本では、じつは画像を極力控えめにした。このシリーズでは珍しいことである。それから、音を文字で説明しない。また、綾戸さん自身の言葉以外に、綾戸さんの経歴を「文学的に」語ることは絶対しない。それが大方針だった。
編集者の願いは、文字とじっくりつき合ってくださって、そこに読者の世界の音を響かせてもらいたいということである。「本でライブを」というのは、そういう意味なので、決してライブの迫力を本でなぞろうというのとは全く別 の世界である。