総合出版・編集プロダクション「ホントに歩く」東海道・中山道

課外授業ようこそ先輩
重松清

別冊 課外授業ようこそ先輩
重松清
見よう、聞こう、書こう

NHK「課外授業ようこそ先輩」制作グループ+ KTC中央出版 編
仕様:四六判 上製本208頁
定価:本体1,400円+税
発行:KTC中央出版
装丁:桂川潤
2002年6月23日発行

番組名「小説は身近なひとの再発見」
2001年11月25日 NHK総合テレビ放送
授業の場=鳥取県米子市立福米東小学校

誰かの気持ちになってみると、「つながり」が生まれる。

きみは家族をどう見ている?
家族はきみをどう見ている?
授業の課題・小説を書くこと。
主人公は、きみの家族だ?

「十人十色」とか、「蓼食う虫もすきずき」とか、人の好みはさまざまだ。自分とは違う人の好みは、不思議に思えて仕方ない。でも、自分が「嫌いなもの」を好きと思っている人の気持ちってどんなものだろう。
重松さんは、オレンジジュースが大嫌いだけれど、そのオレンジジュースを飲んでみせる宿題ビデオを授業の前に子どもたちに送っていた。
嫌いなものを好きだと思えば? 「もしも~なら」と考えれば? と、「想像力」についての話から授業は始まった。

目次

プロローグ 小学五年生への手紙 重松清

授業1 嫌いなものを「好き」と思えば
自分の嫌いなものを持ち寄る
もしも~だったら……

授業2 視点を変える
いつもと違う位置で

授業3 想像力でより具体的に
主人公を決めよう わが家の出来事
「もしも」と比喩

授業4 取材しよう、書こう
身近な人を取材しよう

重松清 インタビュー

授業5 作品を完成させて、発表しよう
下書きをもっといい作品にしよう
自信を持って発表しよう
授業を終えて


本書プロローグより

小学五年生への手紙 重松 清

NHKのディレクターから「『ようこそ先輩』に出ませんか」というお誘いを受けたのは、二〇〇一年夏のことでした。三十分ほど悩んで(ちょっと短いかな?)、お引き受けすることを決めたとき、ひとつだけ条件を出させてもらいました。

小学五年生を、教えさせてほしい??。

理由はいくつかあります。当時小学五年生だったぼくの長女と同じ学年なら雰囲気がつかめるから教えやすいんじゃないか、というのが一つ。四年生の男子のワンパクぶりや六年生の女子のクールな視線とまともに向き合うのはキツいだろうな、とも弱気に思いました。でも、なにより大きかったのは「小学五年生だから」という??理由になっていない理由だったのでした。

小学五年生。年齢でいうなら、十歳か十一歳。ぼくも三十年近く昔は小学五年生でした。『ようこそ先輩』の舞台になった鳥取県米子市の小学校に通 っていました。野球が好きで、算数の苦手な、フツーの少年です。作文は得意だったけれど、まさか将来お話を書いて生活するようになるとは夢にも思わず、『少年マガジン』と『仮面ライダー』に夢中の日々を過ごしていました。

小学五年生の一年間に、とりたてて大きなできごとがあったわけではありません。
でも、ぼくはいま、あの日々が懐かしくてしょうがないのです。

休み時間になると大声をあげて学校の廊下を走りまわりながら、ときどき、友だちにも誰にも会わずにひとりぼっちの時間を過ごしたくもなる。そんなあの頃、ちょっと背伸びをすれば、遠くに「おとな」の世界がぼんやり見えていました。逆に、後ろを振り返ると、幼稚園や小学校低学年だった「こども」時代の記憶も決して消えてはいませんでした。

「こども」以上、「おとな」未満??中途半端で不安定な、ぼく自身にとっての「少年」の日々は、小学五年生のときに始まったのでした。

「親友」という言葉が、とてもまぶしかった。だからこそ「絶交!」と叫んだことも多かった。いじめの真似事らしきものも、ごめん、けっこうやった。野球は大好きでも、「プロ野球選手は無理だろうな」と思うようにもなった。女子の背丈がみんな急に高くなって、四年生までのように男子と女子が気軽におしゃべりすることも減った。母親といっしょに歩いているところを友だちに見られるのが恥ずかしくなり、お酒に酔った父親に話しかけられるのがうっとうしくなって、日曜日は家族で出かけるより友だちと遊ぶほうを優先するようになった。片思いの女の子がいた。校庭で決闘したイヤな奴がいた。初めて子どもたちだけでバスに乗った。隣の小学校と野球の試合をしたとき、相手がみんなおとなっぽく見えた。半ズボンのポケットに手をつっこんで歩くほうがカッコいいんだと知った。紐付きのズックを履きたくてしかたなかった。女子の中でつまはじきになっている子のことを気にしながら、なにもできなかった。学級会ではりきって自分の意見を言うことが、少しずつ減ってきた……。

小学五年生の日々を思いだすたびに、胸の中で、甘酸っぱさと苦さが入り交じってしまいます。あの頃に戻りたいなあという思いもあるし、頭をかきむしりたくなるような後悔もあります。

自分のことを思いだすのと同じくらい、ぼくが小学五年生だった頃の父親のことも考えてしまいます。つま先立ちして「おとな」の世界を眺める息子の背中を見ながら、オヤジはなにを思っていたのだろう。危なっかしさに、はらはらしていたのかな。がんばれ、がんばれ、と応援してくれていたのかな。それとも、ちょっと寂しかったのかな……。

小学五年生に会いたい??。

「教える」なんて立派なことはできないけれど、とにかく、会いたい。

会って、なにを伝える???

きみは世界で「ただひとり」だけど、「ひとりぼっち」じゃないぜ、と言おうか。

たまにはお父さんやお母さんとゆっくり話してみなよ、と言ってみようか。

NHKのディレクターに授業の計画を聞かれたとき、ぼくはただ、それだけを答えたのでした。

この本を、「こども」から「少年」になったばかりの小学五年生たちに捧げます。
そして、小学五年生の日々をときどき振り返る「おとな」たちにも。

ひさしぶりに訪れた母校の教室には、あの頃のぼくとよく似た五年生が、緊張した顔で座っていました。

さあ、授業、始めるよ??。

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