本棚にある一冊がふと目にとまって、手にした。
ちらっと頁を開いて読み始めたら、次のページも繰っていた。いついただいたのか、じつはどなたからだったかさえもすぐには思い出せないことも、たまにある。そんなに頻繁に本をいただいているわけではないのだが。ご縁があって、記念にご恵贈いただいた自費出版本だ。
詩集・歌集は、いただいてすぐに読了して、感想と謝礼をいつもすぐにお返し出来るものではない。落掌の御礼だけはしても、感想などは、そのままになってしまうこともたびたびである。それでも、本棚にはきちんと保管されている。
駅で子どもが母親なのか誰かを待っている。電車が来て待つ人は降りてこず、次の電車まではこれから25分を待つ、という詩がある。同じ「待つ」という二つ目の詩は、子どもがホームの草むらへおしっこをしている。車掌がそれを待っていて、母親はおろおろしているのに、乗客は誰も怒ったりしていない、というものだ。
奥付は1976年。ずっと時代が下った、横浜線のその駅を私は知っている。書かれた当時の古い時代の田舎の駅は知らないが、この詩の情景ははっきりと想い浮かぶ。
いろんなテーマのたくさんの詩が納められた詩集は、その方の活版印刷での第一詩集だそうだ。「あとがき」を読むと、詩を書くようになったいきさつと、詩集を出したかった思いが伝わってくる。自費出版っていいなあ、と私は改めて思い到ったのだった。
本を出して有名になったり、お金儲けをするのではない。
自分の体験や想いの情景を本の形にする。その営みがいいなあと思う。ふと、本棚から引き出した本に、著者からちょっと話しかけられたような時間を持った。本をいただいてありがとう。遅すぎるお礼だが、この文書を書いて謝意を述べたかった。
2024年9月12日
(お)記